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「花田柔人です、よろしくお願いいたします」
黒くて(でも陽の光に赤っぽい茶に溶ける)
ふわふわした髪の毛が
今時珍しくきちんとしたお辞儀をして揺れた
所詮事務、の私は
それくらいの印象しかなかったけれど
美に命を削る女子の多い職場
(なんたって20~30代の女性を
ターゲットにした洋服を扱う会社)に
突如として現れた優男(イケメン)を
周りは放っておかなかった
まるで飢えた狼の中に放り込まれた
仔羊のようだった、と思う
毎昼毎晩、食事に誘われ
柔くんもそれを断らないもんだから
毎日違う女をとっかえひっかえ
(見た目通り)そういうのが好きな人なんだなあ
と別世界のことのように見ていた
勇気、がないからと
その食事会に誘われたことも度々あったが
他の行事(忘年会や新年会など)同様
丁重にお断りし続けた
間違っても
(そんなことはないと確信していたのに
なぜか今一緒に暮らしていて
しかもそれが心地良かったりするから
タチが悪いのだけれど)
間違ったことが起きないように、と
ただそれだけを祈っていた
ー…もう、
あんな気持ちは味わいたくないから
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