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「水元さんは、一人がすきなの?」
そんなわけで何となく避けていた彼と
はじめてまともに話したのは
昼休憩を少し過ぎた喫煙室の中だった
同僚、といっても
社員と事務では微妙な温度差がある
その埋まらない距離感に
私は居心地の悪さを感じていて
仕事内容の違いを利用して
目につかない程度に
時間をズラして休憩を取っていた
世の中は禁煙に優しく
煙草は、美容だなんだには天敵であるから
ストレスの多い仕事でも
喫煙所の利用者はほぼいない
其処は私にとって
数少ない 社内の憩いの場だった
(あとは印刷室か資料室くらいだ)
ー…彼が来るまでは、だが
その日も私は
少し遅い休憩を取っていて
吐き出した煙がゆらゆらと漂いながら
換気扇の羽の間に吸い込まれていくのを
ただぼんやりと眺めていた
キィと控えめに扉が開く音がして
誰かが入ってきたのを知ったが
特段視線を送って
誰か、を確認することはしない
悪口を言われていた誰かが
突然現れた時のような
電車で携帯電話が
大きな音を立ててしまった時のような
一瞬の、人の視線、が、昔から苦手だった
明確に自分は"外"だと感じてしまう
自分が嫌なことはしないほうがいい
他の人が嫌な思いをするとか
そういう偽善的な理由じゃなくて
ただ単に、面倒なことになるのが厭だから
だからその日も
それが誰かを確認することはしなかった
どうせ課長か掃除のおばちゃんだろう、
(大体この二人くらいしかこの部屋に来ない)
と思っていた
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