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喫煙所の扉は 磨りガラスになってはいるが 中に人がいるかいないかくらいは 分かる仕様だし さほど広くもない空間は情報量が少なくて 入った瞬間からどこに誰がいて何があるのか すぐに分かるほどしかない それなのに入ってきた気配は 私に気付いて(大袈裟に)小さく息を飲んだ そこで私は 自分の読みが外れたことを知り 視線を換気扇から扉へ向ける 「…、あ」 完全に想定していなかった 自分が関わる気もなかった相手が 其処に立っていて 動揺した私は挨拶も無礼なのも忘れて 小さく声を漏らした 「…お疲れ様です」 「…お疲れ様」 妙な間があった後 彼が挨拶してきたので こちらも無難に返事を返す 「…隣、良いっすか」 狭い空間に男女が、二人 (しかも男は今大人気の社内のアイドル) 他の人間 特になんとしてでも彼に近付きたくて 目を血走らせている女の子たちに 見られでもしたら 妙な噂が立ちそうで正直嫌だったが 面と向かって断る勇気もなく 小さく頷いて少し横にズレてみせる そんな私を見て 彼は安心したようにふわりと微笑んだ ー…これは、モテるわ
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