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「水元さんって仕事デキるよね」
ひとしきり笑って落ち着いた頃
ふと彼がそんなことを言い出した
「周りが見えてるっていうか
その時やるべきことがわかってる感じ…?
仕事は事務だけど皆の必要なときに必要なものを
ひそかに揃えておいてくれてるのが
すごいと思ってた」
「ひそかにって、忍者みたい」
笑って流しながら私は、内心少し驚く
入社早々派手な女性関係と裏腹に
彼は、花田柔人は仕事が出来た
仕事内容の習得の早さに加え
会議における的確で独創的な発言
内容で選り好みせず仕事に向かう姿勢
そして内外問わない心配り
それらは
彼に心を奪われている女社員だけでなく
彼の奪い合いに破れた女達
彼に嫉妬する男社員達、
会社を牛耳るお局様から取引相手にまで
(そして無関係を装いたい私も不本意ながら)
彼にカリスマ性と仕事上での優秀さを
認めさせていた
一方私は
事務という肩書きからも分かる日陰の存在
自分のやるべきことくらいは
分かっているし
仮にも同じ職場の人間達
(その人間性が自分には理解できないとしても)
が快適に仕事ができるよう
出来ることはきちんとやっておくだけで
なるべく目立たないようにしていたのだが
彼にはお見通しだったらしい
「俺って周りからよくカンペキって見られるの」
こんな台詞も花田が言うと
嫌味に感じられないのは
その見た目と確かな実績があるからだった
「水元さんも、コッチ側でしょ?」
「そ、」
そんなことないよ、
といつも通りの自分なら
軽く誤魔化したはずなのに
それが上手く出来なかったのは
ふと見てしまった彼の瞳が
ひどく綺麗だったからだと思う
髪と同じ色の瞳は
茶色よりずっと仄く
しかしどこまでも澄んでいた
「だから、仲良くなりたいなって…タメだし、」
そう言って
笑った顔に、私は
「て、えぇ~?」
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