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「タメ?」
「うん、タメ」
「う、嘘だぁ~…」
にこにこと
(心なしか面白がっているように)
こちらを見つめる花田は
どう見ても20代前半にしか見えない
「…26?」
「26」
「えー…」
ずるい、と
じっと見つめれば
子供を見るような目が返ってくる
「そういうことで、よろしくね、水元翠サン」
そう言って立ち上がった彼は
逆光を浴びてその日一番の笑顔で
此方に手を伸ばしてきて
きっとその時私は彼に堕ちたんだと思う
「…こちらこそよろしく…花田、柔人くん、」
「翠~ネクタイがない~…」
それから
なんやかんやあれやこれやがあり
私達は一緒に暮らしている
会社では完璧な柔くんは
家ではゆるゆるのぐだぐだなお子様だ
「椅子にかけといたよ」
朝に弱い柔くんは
前日の夜に次の日のコーディネートを
決めるのだが、昨夜選んだ時点で
少し皺が目立っていたので
アイロンをかけておいたのだ
(柔くんはこの程度なら
まあいいか~なんて言っていたけれど)
「さすが、翠さまさま。」
「褒めても何もでないよ、はい珈琲」
しゃんとなうったネクタイを持ち上げ
(そこには気付くのが柔くんだ)
嬉々として首元に巻き始める柔くんに
純粋な愛しさを感じた
緩んだ口元を誤魔化すように
音を立ててマグカップをテーブルに置く
次いで朝食のお皿も、二人分
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