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「お、お前、俺の癖なんていつ見つけたんだよ」
「毎日見ておれば自然と分かる」
照れて赤くなっているアイルに、余裕のバーン。
むーっと押し黙ったままワインをグラスになみなみと注ぐアイル。そのままグッと飲み干す。
「風呂入って寝る」
アイルは照れた顔のまま、替えの服を持って浴場に向かう。
「おいで、黒燿」
行きがけにリビングの隅にいた魔獣を呼んで、魔石に収める。
───浴場
ざば、とかけ湯をしてゆっくり湯に浸かる。疲れが湯に溶けて行くようだった。
「・・・ふう」
知らず知らずの内に溜め息が出てしまう。
『人間の癖に』
ドールに言われた言葉が胸に滲みる。もう自分はバーンと永遠の契約を交わした、人間の形をした違うなにかなのだとうっすらと思っていたが、完璧な吸血鬼から見たらただの人間でしかないのかな、と考えると、憂鬱になる。吸血鬼になりたい訳ではない。ただ、人間でいたい訳でもない。ひとえにバーンと一緒にいられれば、なにものでもよかった。なにものでもよかったはずなのに、なぜか胸がざわつく。拠り所の無いような、足元が覚束無いような。
(考えても仕方がないか)
ふ、とちいさく笑って、ざぶ、と湯から上がる。頭を洗っていると、バーンが入ってきた。
「何を考えていた?」
すっかりお見通しのような口ぶりに聞こえた。
「分かってるんだろ」
「まあ、大体な・・・ドールの事は気にするな。あいつは狂っていた」
「そうかな」
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