第1章

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自殺願望のある男、モリヤマサトシは今日も己の自殺願望に負け、睡眠薬を大量に飲み、左手首を切って血が固まらないように湯を張ったバスタブに浸け、湯を少し流したままにしていた。 睡眠薬の効果で、意識は殆どなく、痛みも余り感じていない様子だった。 そこに、突如つむじ風か吹いた。シャンプーやリンス、ボディソープなどが巻き込まれて、騒々しく音を立てる。 音が収まった時、どこから入ったのかサトシの傍らに長身の男が立っていた。 白く長い髪に白い肌、赤い目をしている。 アルビノのようである。 「・・・」 無言のままサトシを抱き上げると、薄く色づいたバスタブの栓を抜く。 「・・・懲りない奴だ」 吐き捨てるように呟くと、サトシの深く切った手首の傷に、軽く左手を当てる。そこが赤く光ったかと思えば、傷はもう消えていた。 指に微かに付いた赤い血を、惜しそうに舐めると、懐かしげにサトシを見つめる。 手慣れた様子でバスタオルでサトシを拭き、着替えさせた。 トイレへ連れていき、大量に持ち込んだ水を飲ませ、睡眠薬を吐かせる。 「・・・れ・・・だ・・・」 何回か吐かせるとさ迷っていた意識がぼんやり戻ったらしく、自分を抱き止めている存在を確認しようとする。 「・・・我を忘れたか?」 少し悲しげにも聞こえる声で、アルビノの男が問いかける。 「・・・おま・・えは・・・」 なにか言おうとして、そのまま意識を失う。 (我を忘れたか?忘れてしまったのか?) アルビノの男が、サトシを抱き止めたまま、茫然としていた。
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