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自殺願望のある男、モリヤマサトシは今日も己の自殺願望に負け、睡眠薬を大量に飲み、左手首を切って血が固まらないように湯を張ったバスタブに浸け、湯を少し流したままにしていた。
睡眠薬の効果で、意識は殆どなく、痛みも余り感じていない様子だった。
そこに、突如つむじ風か吹いた。シャンプーやリンス、ボディソープなどが巻き込まれて、騒々しく音を立てる。
音が収まった時、どこから入ったのかサトシの傍らに長身の男が立っていた。
白く長い髪に白い肌、赤い目をしている。
アルビノのようである。
「・・・」
無言のままサトシを抱き上げると、薄く色づいたバスタブの栓を抜く。
「・・・懲りない奴だ」
吐き捨てるように呟くと、サトシの深く切った手首の傷に、軽く左手を当てる。そこが赤く光ったかと思えば、傷はもう消えていた。
指に微かに付いた赤い血を、惜しそうに舐めると、懐かしげにサトシを見つめる。
手慣れた様子でバスタオルでサトシを拭き、着替えさせた。
トイレへ連れていき、大量に持ち込んだ水を飲ませ、睡眠薬を吐かせる。
「・・・れ・・・だ・・・」
何回か吐かせるとさ迷っていた意識がぼんやり戻ったらしく、自分を抱き止めている存在を確認しようとする。
「・・・我を忘れたか?」
少し悲しげにも聞こえる声で、アルビノの男が問いかける。
「・・・おま・・えは・・・」
なにか言おうとして、そのまま意識を失う。
(我を忘れたか?忘れてしまったのか?)
アルビノの男が、サトシを抱き止めたまま、茫然としていた。
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