第1章

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異変はそれだけではなかった。 起きてすぐは何ともなかったのに、時間が経てば経つほど、酷く喉が渇いてくる。 水を飲んでも、お茶を飲んでも、気休めにしかならない。 ――アレが欲しい。 いいえ、ダメ。 アレの事は、忘れると決めたのだから。 しかし、否定すれば否定するほど、欲望が疼く。 「大丈夫かい、キョウコ?」 「どこか、体の具合でも悪いの?」 心配する両親に、キョウコは何度も否定する。 けれど、欲望に血走った目では、渇望し荒くなる息では、誰も信じてくれない。 その上―― 「ヒッ――!? イヤァァァッ!!」 キョウコは突然悲鳴を上げた。 「どうしたの、キョウコ!?」 「な、何かが……虫が、私の体を這ってる……!」 肌の上をモゾモゾと動き回られる感触に、キョウコは必死で叩き落とそうとする。 しかし、いくら母親が探しても、キョウコの体に虫などはくっついていない。 「いるの……いるのよ! 虫が! 私の肌に!」 目には見えないが、確かにキョウコは感じる。 それも一匹や二匹ではない。 何匹もの虫が、モゾモゾゴソゴソと蠢き、胸元に集まって来る。 それが何時間も、何時間も―― 「あぁ……イヤ……」 気色悪い感覚に冒され、ついにキョウコは発狂した。 「イヤアアァアアァァ!!!」 奇声を上げたキョウコは、自分の肌を爪で掻きむしり、何本ものみみず腫を刻む。 血だらけになっていく娘を、両親は急いで医者に運んだ。 しかし原因は分からず、鎮静剤で眠らせる事しかできなかった。
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