月夜の晩に

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目の前の光景に、三好(みよし)は悲鳴をあげた。 だが、その声は甲高くも、ましてや、か弱くもない。なぜなら 三好は、小太りな四十代の男だからである。 「うわっ!? 何だ、こりゃ!!」 築二十五年の鉄骨造アパートの正面入口先で、彼はそう叫んでいた。 このアパートに住んでいるのは、三好の後ろで青ざめた顔で立っている杉野(すぎの)だ。二人は高校時代からの友人で、今となっては呑み仲間。互いに独身な事もあり、よく どちらかの家に泊まり込んで宅呑みをしている。 そして今日は、最近越したばかりの杉野の家で呑むことになっていた。駅で待ち合わせをし、帰りがてら、家から ほど近いコンビニで缶ビールと つまみを買い、新居へとやって来たのだった。 「ここか? ……あー、懐かしい!! 俺も学生の頃、ここに住んでたんだ。お前、何号室に住んでんの?」 三好は大学時代にタイムスリップした気持ちなり、ワクワクと少年さながらに心を弾ませていた。二段に並べられた部屋番が書かれた銀色のポスト。その中の一つを目にするまでは……。 「何だよ、この尋常じゃない程の手紙は……。さては、引っ越して、転居届け出してねーな!」 おびただしい数の郵便物がポスト口から溢れんばかりに詰まっている。これでは開けた瞬間、ドドドドッと雪崩が起きそうだ。
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