月夜の晩に

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ゆっくりと杉野の指がポストへ向けられた。 カタカタ……。上下左右、小刻みに指先は震えている。 「え……。ここ、なのか?」 三好の問いに杉野は無言で首を縦に振った。先程よりも、心做(な)しか顔色が悪く見える。それでなのか、なかなか杉野は口を開かない。いや、もしかしたら恐怖に乗っ取られ、開けないのかもしれない。 それにしても、奇妙である。 住んでいる者のポストがこれ程までに郵便物で溢れかえるだろうか。どんなに物臭な者でも、二・三日あたりで中を確認し、入っていた物を部屋へ持っていくのではないか? おまけに、杉野は男の一人暮らし。そんなに沢山の郵便物が届くとは考えにくい。 ならば、この光景は何だ? 三好も次第に顔が青ざめていく。水分を失った杉野の口がゆっくりと動き始めた。 「……今朝、空にしたばかりなのに……」 後ろから聞こえた この声に、またもや三好は悲鳴をあげた。もう何が何だか分からない。中年の男二人は無我夢中で、ポストを開け、床に散らばった郵便物を掻き集めると、部屋へと急いだ。
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