月夜の晩に

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―― バタンッ! 扉が閉まるのと同時に、二つの荒い息遣いが静かな部屋に響き出す。力なく、三好と杉野は扉に凭れ掛かった。 カタン……と風で音を立てた窓にすら、大の大人が肩をはね上げる始末。救いなのは、まだ日没前だという事。視界がハッキリ見える分、恐怖も大幅に軽減するだろう。 「……何で、これ持ってきちまったんだ……」 「……さぁ……」 気の動転とは恐ろしい。パニックの中、必死でポストの中身全て抱え、階段を全力疾走で駆け上り、二階の一番奥にある この部屋へ駆け込んだのだ。 走ることを何十年も忘れた体は悲鳴をあげる。 「あー……膝が痛い……」 「イタタタ……腰が……」 郵便物を一箇所にまとめ、二人は その近くに寝転んだ。不気味にそびえ立つ、視界に入る " 山 "。それを横目で見ながら、三好は杉野に訊ねた。 「今朝、空にしたって言ったよな?」 「あぁ。今朝入ってたのは、三通だけだ。ピザ屋のチラシと、会員になってる近所のホームセンターからセールのハガキと、新しく出来た店の開店の知らせ」 「普段もそのくらい……だよなぁー。俺も同じ一人暮らしだけど、そんなもんだし」 「それに、ここは配達が早い時間に来るんだ。大体、十時半頃には来てるな」 意外と杉野は几帳面な性格をしている。ポストも常に空にしていたいらしく、休日家に居て、郵便局員のバイク音が聞こえた時は そそくさと下へ行き、直接受け取ることもあるのだと言う。
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