月夜の晩に

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「おいおい、勘弁してくれよ……。引っ越したばかりだっていうのに……」 「お前、本当に誰かにストーカーされてるんじゃないか? 引っ越す事になったのだって、部屋に誰かが入った痕跡があったからだろ?」 「よせよ……。第一、誰かに付き纏(まと)われる覚えは無い」 「前の女とかは?」 「確かに、嫉妬深い奴も中には居たけど……。別れたのは、そいつの浮気が原因だった。捨てられたのは、俺の方さ……」 肩を落とす杉野を慰めるように三好は背中をポンと叩いた。四十年近く生きていれば、それなりの恋沙汰はあるだろう。しかし、杉野の場合、別れる時は決まって相手から別れ話を切り出されていた。「細すぎる」と愛想を尽かされるのが殆ど。だからこそ、誰かに付き纏われる覚えが無いと彼は言ったのだ。 「とりあえず、開けて見てみよう。何か分かるかも」 「あぁ、そうだな。何か手掛かりが見つかるかもしれない」 目の前にあった封筒に手を伸ばし、開封すると、中から字がビッチリ書かれた便箋が出てきた。字からするに、女性が書いたような筆跡だ。
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