第1章

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「しっ、 主上(おかみ)よ」 年かさの女官の声に格子の内がやや静まる。 「ところで何が始まるの?」 「ものの憑いた鞍に、 博雅様がお乗りになると言う話」 なんと恐ろしいことを、 と再びざわめきが高まる。 ああ、 と事情通の女官が笑った。 「昨日親王様がお乗りになったと言うアレね」 いい気味、 と声を潜めてもう一人。 「あたし嫌いよ。 いやらしいんだもん」 くすくすと漏れる意地の悪い笑い。 それよりも、 と心配げな声。 「博雅様は大丈夫なの?そんな鞍にお乗りになって」 浮ついていた空気が、 しんと静まる。 「……大丈夫よ」 桜の文様の唐衣をまとった女官がきっぱりと言う。
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