第1章

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「晴明!」 殿上の間の入り口から彼を呼ぶ声がした。 見れば源博雅(ひろまさ)だ。 冠から覗く黒鳶色の髪が黒い束帯の姿を優しげに見せている。 近寄って覗き込めば 、 その瞳も少し色素が薄い鳶色だ。 博雅様だわ、 と声が高まる。 「あの方にまでお目にかかれようとは、 今日はなんと良い日でしょう」 「しっ、 うるさくてよ」 晴明とは異なって、 博雅は生まれも育ちも尊い血筋。 あだや女官の噂話などを耳に入れていい御人ではない。 博雅が歩んでくると途端に声がひそまった。 「帝のお召しか?」 「まあな」 息を潜めながらもこちらをしっかりと伺っている女官達の気配に、 晴明がにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
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