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今度は悲鳴にも似た声で清貴の名前を呼ぶ。駆け寄ろうとすると清貴がこちらを睨みつけてきていた。近づくなということだろう。しかし、そんな事を言っている場合ではないと思った時、四季は見た。
小指を折られた時点で背負い投げが無理だと思った清貴は咄嗟に左肘を仮面の男のわき腹にたたき込んでいた。仮面の男から息が漏れる。清貴が掴んでいた左腕を無理矢理振り払うと、清貴と距離を取る。直後に踵を返すと全速力で逃走した。
「待て!」
清貴が叫んで追いかけるがすぐに闇に紛れて姿が見えなくなる。
「逃がしたか……」
清貴が四季の所に戻ってきながら呟く。
「清貴さん! 清貴さん! 大丈夫ですか?」
「ん? ああ。別に。痛みには慣れているからな。それより四季は大丈夫か出てくるのが遅くなって悪かった」
「私は大丈夫です。それよりその指!」
言われて清貴は自分の小指を眺める。
「ああ。折れてるなこれは。しばらく生活が面倒になりそうだ。適当に固定しておけば治るさ」
「ダメです! 病院に行きましょう!」
四季が鞄からボールペンとテーピングを取り出して小指を固定していく。
「手慣れてるなぁ」
清貴はまるで人事の様に感心している。
「清貴さんはもっと自分を大事にしてください。骨折しているんですよ」
涙目で起こる四季に清貴は困ったような顔をする。
「でもなぁ。慣れてしまってるからなぁ。四季も分かっているだろ?」
清貴は四季の親戚である。四季の実家でもある財閥は親族が組織に大きく関わっている。つまり親戚である清貴の家もその財閥の深いところに所属している一族なのである。具体的に言えば警備部は清貴の一族で占められていると言っても過言ではない。そして、そういう家柄に生まれた清貴は子供の頃からありとあらゆる護身術、格闘技を教え込まれているし緊急時への対応も訓練されている。それどころか、清貴は中学生の頃から実戦経験を積む為に治安が悪い場所やいわゆる反社会的組織が絡んだ事案に実家の命令で駆り出されているのだ。
今はとある問題を起こしてそういう仕事からは外されているようだが、それでも荒事に対する経験は普通の人とは桁違いである。
「そういう問題じゃありません! 清貴さんは自分のことを過小評価しすぎなんです。自分が傷ついたら傷つく他人がいると言うことを自覚してください!」
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