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空は突き抜けるような青空が広がっている。眼下には雨宮市の町並みが見えており、無数の人々の生活が垣間見える。ビルや住宅街の合間に木々が生え、ビルに反射する光と樹木の緑が綺麗な景観を作り出していた。
「素敵な街ですね」
九隅四季は町並みを眺めながらつぶやく。その足取りはとぼとぼと擬音が聞こえてきそうだ。真夏の日差しが四季の白い髪を容赦なく照らす。華奢に見える足はほとんど地面から離れず引きずるように動いている。額には玉のような汗が吹き出していた。
「バスが日に三本しかないところを除けばですけどね……」
昨日の夜寝るのが遅かったのが良くなかった。たまたま見た深夜ドラマ「恋のドキドキズッキュンハート」が異様に面白かったのだ。何よりタイトルがダサい異様にダサい。笑えるほどにダサい。そこにひかれたもののまったく期待せずに見始めたのだが。
「まさか、現代に恋のライバルとして織田信長が参戦するとは」
思わず食い入るように見入ってしまい、気がついたときには空が白んでいたのだ。四季は徹夜した自分の行動を反省していた。
「でも後悔はしていません」
自分を奮い立たせるようにつぶやく。それに寝不足のままバスに乗ったのも良くなかった。いつの間にか寝てしまい、目が覚めたとき目的地を通り過ぎたと思って慌てて降りたものの目的地よりも早く降りてしまったのだ。次のバスを待とうと運行時間の看板を見たときの衝撃は今でも忘れられない。朝と昼と夕方の三本しかバスが走っていないのだ。
昼のバスに乗ってきた四季は次のバスに乗ろうと思うと何もないバス停で五時間近く待たなければならない。さすがにそれは不毛だと考え街に向かって歩き始めたのだが、見た目以上に街までの道のりは遠かった。
「……私はここで死んでしまうのかもしれませんね」
道路は太陽の照り返しで熱く、動かす足は鉛のように重たくなっていた。四季本人はかなりの距離を歩いたつもりではあったが、山をうねりながら下る道路はどこまでも続き、眼下の街は一行に近づいてきてはくれない。
歩くというよりはすでに引きずっているような足を無理矢理動かしていたものの、それすらもおぼつかなくなる。無言でその場に座り込む。ガードレールに背中を預け、呆然と空を見上げた。
「もう、一歩も動けません。グッバイ人生。恥の多い人生でしたが、悪い気分ではありません」
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