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だけどそんなコトこいつに訊くのは、俺のプライドが許さない。
深呼吸の甲斐あってか、ようやく気持ちが落ち着いてきた俺は、和哉が二の句を継ぐのを待つ。
「まあ要するにだ、遊びに来いって誘ってんだ」
何を言い出すかと思えば……自分の眉間に皺が寄るのを感じた。ここでキレたら二の舞だ、ゆっくり息を吐くと、俺はその訳を問う。
「何で俺が、兄貴ん家に遊び行かなきゃなんねえの?」
「深雪は甘いものに目が無いよな? 兄貴がさ、練習だって家で山ほど菓子をつくってんだ。それを消費すんのは、専ら俺の役目でな。
だが俺は甘いものとか得意じゃねえしさ。よかったら深雪、俺を助けてくんねえか」
今度は俺の眉がピクリと動いた。
そうなんだ。俺が無類の甘いもの好きだってコト、こいつには嫌という程に知られている。しかも和哉が甘いもの苦手だってコトも、親友だった俺はよく知っている。
助けてくれとまで言われたんだ、ココは元親友として手を貸さないなんて、男が廃るってモンだ。
「いいぜ、行ってやるよ」
「なら愚図ぐずしてねーで、とっとと行くぞ」
嬉々として俺が快諾すると、さっきまでの殊勝さはどこ吹く風か、和哉は泰然とそう言ってのけた。
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