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「なんで、死ぬんだよ…。」
さっきから吹いている強めの風に内心ビクビクしながらも、彼女にそう問いかける。
「さっき君、言ったよね。生きてればいいことあるって。でもさ、それは楽しいことなの?」
彼女は俺から目を背けて言葉を続ける。
「私にとって、この世のいいことも悪いことも全部つまんないの。だからここで死ぬの。」
最後の言葉はやけに断定的に聞こえた。まるでそれはもう決定事項であって、お前がいくら言おうが自分の意思が変わらないということを強調しているかのようだった。
「頭おかしい女って思ってるでしょ?うん、でも気にしなくてもいいよ。実際、客観的に見たらそうだと思うから。」
「君のこと大切に思ってくれる人だっているだろ。」
我ながらなんとも陳腐なセリフだと思う。思わず自分の頭を抱えたくなる。案の定彼女はそんな俺の言葉を聞いて相変わらずの表情で笑みを浮かべる。
「いないよそんなの。親だって所詮は他人なんだし。結局人間、一番大切にできるのは自分自身なんだよ。だからそんなことで私を止めようと思っても無駄だよ。」
彼女とここまで話した時間は3分もないだろう。しかし、俺にとってはそれはとてつもなく長く感じる時間であった。
もはや退路は絶たれた。そんな気分になった。何度も言うが18年ちょっとしか生きていない人生経験の中で俺がこの娘に何を語ることができるというのだろうか。
いや…。それどころか彼女の言葉に少しだけ共感してしまっている自分も確かにそこにいた。
きっと誰かが自分のことを大切に思ってくれている。俺にも確かにそう考えている時期があった。
しかしそれは幻想である。
人間誰しも自分が一番なのだ。自分のことを大切に思ってくれている人はもしかしたらいるかもしれない。今いなくてもこれから先現れるかもしれない。
だけど、結局その「人を大切に思う気持ち」ってのは自分のための感情なのであって。
本当の意味で自分のことを大切にできるのはこの世に自分しかいない。それが現実であって。
それはごくごく当たり前のことなのだ。
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