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「はい。今日は、どうしても花束を渡したかったけど、
これから出かけるから小さいのにしてもらいました」
玄関で、いつもの笑顔で差し出されたのは、
ベビーイエローのミニバラのブーケ。
「これね、今日一日くらいなら、このまま花瓶に挿していって大丈夫だって」
そう言った彼は、「黄色のバラの花言葉は、あとでね」と付け加える。
そして今、私たちは海から山にかけてのコースを走っている。
初秋の日差しを受けるみかん畑が、
濃い緑色の中にオレンジ色をまばらに散りばめ、鮮やかに映る。
眼下の海は、高くなり始めた青空の下で、
穏やかに銀色の絹のスカーフを広げたように輝いている。
しかし、それらを包む空気には、まだしがみつく夏の暑さを残っていた。
だが、その中をバイクのエンジン音が呼び込む初秋の風は、
とても肌に心地よかった。
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