第6章  イエロー

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「はい。今日は、どうしても花束を渡したかったけど、 これから出かけるから小さいのにしてもらいました」 玄関で、いつもの笑顔で差し出されたのは、 ベビーイエローのミニバラのブーケ。 「これね、今日一日くらいなら、このまま花瓶に挿していって大丈夫だって」 そう言った彼は、「黄色のバラの花言葉は、あとでね」と付け加える。 そして今、私たちは海から山にかけてのコースを走っている。 初秋の日差しを受けるみかん畑が、 濃い緑色の中にオレンジ色をまばらに散りばめ、鮮やかに映る。 眼下の海は、高くなり始めた青空の下で、 穏やかに銀色の絹のスカーフを広げたように輝いている。 しかし、それらを包む空気には、まだしがみつく夏の暑さを残っていた。 だが、その中をバイクのエンジン音が呼び込む初秋の風は、 とても肌に心地よかった。
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