1人が本棚に入れています
本棚に追加
「これ勝手にもらっていっても大丈夫かな?」
会計を済ませた居酒屋のカウンターで、
木下さんは誰も手に山積みになった無料のマッチ籠に眼をやった。
「別に何個でもいいんじゃないっすか?…ていうか何に使うんですか?最近、アイコス吸ってますよね?」
「いや、家にあったら便利だなあと思って。お線香あげるのに丁度いいんだよね」
それから木下さんは照れ笑いとも苦笑いともつかない感じでうす黄金色の眉をしかめた。
違和感。
じわっと広がる何とも言えない間と、
面倒くさい彼女のためらいを消すために
「じゃあ俺も一個もらってこうかな。マッチで吸うとちょっと一味違う気がするんですよ」
と今日のシナリオに無いセリフを添えながら山積みのマッチ箱をガバッと掴み取りをして、
一個を木下さんにギュッと握らせる。
サンキューと言ってから
「…よく旦那もやってたなあ。カッコいいよね、その吸い方」
木下さんは純粋に褒めてくれているつもりなのだろうが、
僕はかえって萎えてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!