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弁護士を志望しているぼく、マリウス・ポンメルシーと、現役の警察官であるジャベール警部が現在同居している、という話をすると、皆一様にびっくりする。
ぼくの親友であるクールフェラックに至っては、目に涙を浮かべながら「マリウス……!まさかお前、最近ようやく巡りあえたと言っていた恋人ってその……?」と問いかけてきたけど落ち着いてクールフェラック。ぼくの恋人はかわいらしいほんわか系の女の子で、名前はコゼットです。
警部さんと一つ屋根の下に暮らすことになった経緯については従兄のテオデュール兄も絡んだ込み入った話になるため今回は「諸事情により」の一言で失礼させていただくが、そんな理由で、今リビングから聞こえてくる楽しそうな響きの声は、本日非番の警部さんのもののはずだ。
珍しい。
人のことを言えた口ではないが、警部さんは友達が少ない。……気がする。
以前そのことを問いかけてみた時、彼は鼻を鳴らして「あいにく、ほとんど犯罪者としか接触する機会がないものでね。」とのたまっていた。
仕事の他に交友関係を持たなそうな、そして仕事関連の話ではあんな軽やかな響きの声を発したことのない生真面目な彼のこと、もしかすると警察学校時代の旧友などだろうか。
そんな想像をしつつリビングに足を踏み入れると、受話器片手に話し込むジャベールさんの後ろ姿が見えた。
「そうか。それでお前は、アフリカの飢えた子どもたちのことを考えていたらいてもたってもいられなくなって、会社の金を横領してユニセフに一千万、募金したんだな?それでいて、そのことが会社にバレるとまずいから、私に横領した分の金を貸してほしいと」
ん?
耳に飛び込んできた会話のきな臭さに、ぼくは思わず自分の部屋へと向かっていた足を止めた。
「え?『三日後には必ず返す』だと?誰が信じるか、お前なんぞの言葉を!まあいい、すぐに迎えに行ってやるから、首を洗って待っているがいい。……何だと?迎えには来なくていい?そうはいくまい、私から行ってやらないと、お前はすぐに逃げるからな。ああそうだ、お前はそういうやつだと最初からわかっていたぞ!」
そして警部殿は何とも言い難い高揚した声で受話器に向かって吠えた。
「ジャン・バルジャン!!」
その時、僕は瞬時に状況を理解した。
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