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意識が浮上したのは軋む音と中を掻き回される快感からで、掠れた声はいつから出ていたのだろうか。立ち込める匂いが思考を働かせないようにしているのか考えることが億劫になる。少し落ち着いた疼きに後ろから突き上げる人を見つめた。
「……八尋様?」
美しく整った裸体が艶かしく動く。八尋様は俺を見つめ優しく微笑んだ。
「私を知っているのですね。まさか同郷に運命の相手がいるとは灯台もと暗しとはまさにこの事ですね」
「はい、地元の誇りですから……」
本能が伝える。待ち望んだ者だと。
「貴方をずっと求めていました。明け方この部屋に連れてきて誰かに奪われる前にと契約を終わらせた事をお許し下さい」
役場の方が言っていた。番にしか分からない匂いとフェロモンがあると、此で俺の身体は八尋様の物になったのか。
「はい、ただ家には帰りたくありません。どうか消えた事にして頂けませんか?」
八尋様は少し驚きながらも取り合えず了解し一週間をこの部屋で二人きりで過ごした。
俺が飲んでいた抑制剤らしきものはただのラムネで効果など無い事、初めてきた発情期のタイミングと八尋様の帰郷が重なった事はきっと運命だと重なり合いながら教えられた。俺はベータだった事と、両親が家に帰らなくなった事、世間にはベータとして生活しオメガは隠していることだけを伝え発情期が終わってから八尋様の指揮する戦場へ向かった。
ーーー
安全な場所から護衛のベータに囲まれ前線を見下ろす。
龍の鱗でできた肌の相手を一掃する防弾、空には巨大な角を持つ双頭の鳥が旋回する。高い山は赤く色付き水平線は緑色に輝いていた。
「旅をしよう、美しい笑顔が絶えない旅を」
そんな約束が木霊し涙となって俺を苦しめる。時成、今悲しんでいますか?何も言えず消えた俺をどうか恨み忘れて下さい。
「また、泣いておられるのですか?」
今日の戦を終えて八尋様が迎えに来る。
「何故、闘いばかりするのですか?」
切なそうに笑い教えてくれた。この国の王、アルファがオメガを探すために国交の無い国を攻め落とし戦を続けるていることを。それに振り回され命を落とすのはベータばかりの為、民へは其らしい理由で開戦したと常に公表していることを。
「八尋様方アルファはベータをどうお考えなのですか?」
「正直なところ体の良い駒でしょう」
俺は時成と夢見た争いのない時代は来ないとやっと解った。
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