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 一年続いたこの土地での戦争中に4度の発情期が来た。簡易テントの中では猿轡を噛まされ決して声を出さないように抉られた。泪に暮れる生活の中で時成を思い続け忘れるなどできなかった。  本能では八尋様が相手だと解っている。でも理性では時成を愛していた。恋とはどこでするものなのだろうか。悩みながら帰郷となり俺は隠れるように八尋様の家へ行き婚儀を済ませた。アルファとオメガの幸せな家庭で八尋様のお母様は女性オメガだった。  僅に過った。電車を降りる駅で会えないかと。初めて見るこの窓の外を偶然でも歩かないかと。 「この窓からの景色がお好きですか?外に誰かがいるのですか?」  肩を置かれ振り返ると冷たい目をされた八尋様の唇が近付く。噛み付くようなキスに契約の時に噛まれた項が疼いた。発情期でもないのに明るい内から求められる事に驚きながらも俺の身体は悦びに泣く。 「すみません。帰郷と共に貴方が何処かに飛び立たれてしまいそうで」  幾度も闘われているのに傷のない美しい肌を重ねながら言われた。 「ご覧の通り俺には飛び立つ羽根もありませんよ」  俺の肌を舐め背に舌が這ったとき噛まれた。 「そうですね。では飛び立ちたいと夢見る場所がなければ貴方は私だけを愛せますね」  恐ろしい言葉を理解できないまま八尋様の香りに魅せられれば、発情を促されたのか身体は応えるように反応し一週間その部屋で過ごした。 ーーー  王の命令でまた近隣の小国との戦が始まった。今回は大勢のベータを引き連れて。近くの国ということと人気の高い八尋様の軍のため同郷の志願兵も多いと聞いた。騎馬隊の中を長めの外套で頭と身を隠しながら一人一人確認する。遠くに見つけた時成に青ざめ急ぎ八尋様の元へ戻り問い詰めた。 「何故、志願兵を増やしたのですか?国軍だけで充分だと以前よりお聞きしておりましたよ」 「床の中で貴方の心を縛る方法がやっと解ったのですよ。なるべく時成さんの隊を前に出します」  何故バレていたのか膝をつき涙を流す俺の横を八尋様は通りすぎ行ってしまわれた。 俺が早々に諦めていればこんなことには……、最近の八尋様は少し怖いと思う事はあった。床の中で締め付けられそのまま意識が遠退いた時にはこのまま死ねたらと思った。それでも身体は八尋様を受け入れることを悦び、今もこんな場所でさえ八尋様の匂いは俺の思考を止めかねない。
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