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 俺の乗っていた馬を従者に任せ八尋様は俺を馬に乗せ隊を後にした。 「申し訳ありません」 「千晴殿、貴方はそんなにあいつが好きか」  いつも強く堂々としている八尋様はどこか弱々しく見えた。  オメガの生き方を理解していないわけではない。ベータで嫌というほど差別してきたのだから。男でも子を産み働くなど到底出来ず容姿のみでアルファに寄生する邪魔者と。俺自身今社会に放り出されれば生きては行けず発情期に狂い死ぬだろう。  八尋様の優しさに甘え此処まで弱らせる俺を八尋様はお捨てになっても仕方がない。しかし跪き許しを請うべきなのに俺の心は時成の元に在りどうすることもできなかった。  俺の沈黙に俺の心の場所を悟ったのか八尋様も口を閉ざす。  詰め所で八尋様は従者へ戦闘の準備を、とだけ伝え人を外させた。俺は此処に居るべきなのか迷い一歩後ろに下がった。  俯く八尋様の目から泪が落ち床を濡らした。 「私は、ずっと千晴殿を探していました。見つけた時には間に合った事に浮かれ意識のない貴方と契約を結びましたが其処に何の疑問も持ちませんでした。番う事があるべき姿だと思っていたから」  アルファは何故かベータを寄せ付けない。ベータはその姿に余計オメガへ怒りをぶつけるとも知らず。この人種はオメガに拘り運命に縛られているように見えた。誰が決めたのか分からないこの運命(さだめ)が意味のあるものだと信じてみよう。どうせ俺は八尋様がいなければ生きてはいけないのだから、俺と八尋様が番に決められた意味を見出だし運命を受け入れよう。  時成……最後に本心を言えて良かった。 「八尋様いつかで構いません、どうか運命だからではなく俺だから愛したという理由を見付けて下さい。俺も貴方だから運命だったという理由を見つけます。順番は逆ですが心の整理を終わらせる事が出来ました。どうか俺を妻として受け入れて下さい」  本能の中に理性を結びつけヒトとして愛を育てたい。 「一目惚れという理由でも構いませんか?」  八尋様の弱さが俺というのは少しだけ嬉しく感じた。  八尋様に頼みベータを蔑ろにしないことを約束してもらい時成のいる隊を下げて貰った。戦闘で負の感情のまま運命の相手を見付けても心までは掴めないと幼い王を宥め少しずつ戦闘を減らしていく。時成と俺が見たかった世界をいつか御互いのパートナーと旅ができるように。 ーー千晴終ーー
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