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 小さな町で育った。俺の産まれる前、国軍の司令官という普通のポジションの父は美しい母を人目に晒すことを嫌い、誰でもできる仕事だからと辞職し中心街から少し離れた小さな町に天下り幸せな生活を始めたらしい。  俺は成長と共にアルファとして誰かを求めるようになった。何故かなど考えなかった。両親の様に仲睦まじく番える相手をただ求めていた。しかしこの小さな町に求めている者などいなかった。寧ろその種すらいなかった。  見合いもしたが何れも魅力は感じても何かが違う。焦燥にかられた俺は王都へ行き父の伝で国軍に入隊し外の世界に出た。兎に角誰かを探していた。無茶苦茶に暴れ回り残虐に攻撃すれば直ぐに上がる白旗、そして落とした国のオメガを探す。数回の戦闘で直ぐに昇格した。 ーーー  少しの暇をもらい久方ぶりの帰路に着く。この年でまさか兄妹が増えるとは……喜ばしいが、盛んな両親を羨ましくも思い、まだ出会えない自身に不安を覚え複雑な心境のまま外の空気を吸いに出た。  運命の番ではなく番契約で結ばれただけの両親でさえあの結び付きの強さ。ならば運命の番ならばどれ程の感情を俺にあたえるのだろう……そんな事を考えながら真夜中に美しい月を見上げ軽い遊戯だと月に向かって歩いてみた。胸の奥が、いや、身体の芯から震え上がる様な匂いに誘われ暗い外口に立つ。時間など構っていられなかった。 「失礼する」  こんな時間に鍵もかけずに無用心だと思いながら匂いに誘われ初めての家を迷わず進むことができる。不思議な感覚に自身でも驚きながらも、どこか当然だと思っていた。襖を開ければ、小さな照明の中で艶かしく誘う姿に魅せられるのと同時に歓喜に震えた。嗅覚と視覚二つが目の前の青年に縛られる。 足の縄はまるで罠に掛かった兎。 「すごい匂いに来てしまいましたが、酷い状態ですね」  この捕らわれた獲物を助けねば。私の唯一の者よ。机の上の薬を見て愕然とする。家は彼以外の気配はない。どうなっているのか聞きたくても目の前の番とは今はまともに会話も出来そうにない。  考える間に青年から迫られ確信した。運命を貴方も解っているのだと。"辛そうな貴方を助けたい"を口実にたぎる杭を押し入れればまるで準備していたかの様に柔らかく奥へと誘われる。悲鳴のような声はどこか悦が込もっているようで夢中だった。
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