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「そんな父の背中見て、私は育った。子供の頃は父のように強くなり、父の背中を支えたいと思っていた。……ふっ、今思えば、あの頃の私は本当に馬鹿だったな」 「だがある時から、私は父を追うのを止めた。それは初めて父に戦争に連れて行かれ、戦という名の地獄を見た日だった」 「父にも敵はいたからな、刺客の死体ならば、いくらでも見た事がある。が、戦争で人が死んでいく光景を見たのは初めてだった。生まれて初めて、声が出ない程驚いたよ。無数の人間が呆気なく、人としての形が残らないぐらい無残に死んでゆく……それは凄まじい光景だった。あぁ……戦争の後の虐殺や略奪も酷いものだったな。あれは余りにも惨い」 「ちょうどその頃だったな、ミリィが生まれたのは。それはもう可愛かったよ、私にはミリィが天使に見えたものだ。そんな可愛いミリィを見て、私は決断した。あの子には、戦争を見させてはならない、と」 「そう決断してからは早かったよ。私は力をつけ、学生時代に唯一馬が合ったリオンとの仲を深め、信頼出来る部下を手に入れ、そして――」 「父を殺した」 「父を殺した後は私が女帝になり、戦争を止めた。それで今は、ミリィが生まれた直後に父に殺されてしまった母の代わりに、私がミリィを可愛がりながら、面倒臭い事務仕事に励んでいるのだ」  語り終えたエリザさんは湯に顔を突っ込むと、ブハッ!と勢い良く顔を上げる。その顔は、話す前と比べて、清々しくなっているように見えた。
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