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金曜日の夜はいつも、自分ではない誰かになれるような気がする。そんなことを思うのはきっと、新宿から御苑沿いに二駅分の距離を歩くから。夜の森から流れ出る空気は冷たくて、胸を埋め尽くすほどの土の匂いを乗せていた。もう時間は十時半を跨ろうとしている。
中央線は人々の疲労と憂鬱をそのまま運び、しっかりと降りる駅まで届けてくれたようで、少し足が重い。映画館でレイトショーでも見ていこうかと思ったけれど、特に見たいものも思いつかなかったからやめた。チケット代の千八百円といえば、今日クレームがはいった教材費よりも高かいなと思うと、とたんに映画というものが高い料金を要求しているような気がして眉が下がった。
そういえば、学生の頃から四谷に住んでいるけれど、あまり御苑の中を歩き回ったことはなかったなと、ふと思う。桜が満開の頃に入ったことがあったけれど、花見の客が妙に行儀良くしているのばかりが印象に残っていて、頭上の桃色に感心を持ってはいなかった。
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