第四章 濡れた子猫

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 家に帰ると、母が心配していた。一応途中で遅くなる旨はメールしてあったんだけどな。  リビングではもうすでに食事を終えた父がソファでテレビを見ていた。今日は帰ってくるのが割と早めだったんだな。 「父さん、おかえり」  そう言うと 「おう、幸司おかえり」  と返事を返してきた。ソファの脇を抜けて階段を登ろうとした時…… 「おい!幸司!」  父が血相を変えてソファから飛び上がり、僕の正面から両肩を掴んだ。 「な、な、なんだよ。ちゃんと遅くなるってメールしておいただろ?」  こんな父をみるのは初めてだ。そんなに夜遊びしてきたとは思えないんだが…… 「幸司……この臭い……どうしたんだ……」  父が押し殺すような声で言った。  え?臭い?そんな……母さんには全く気付かれなかったのに…… 「ね……猫の……死体を……運んだんだ……」  一言で父を納得させられるのはこれくらいの言葉しか思いつかない。 「ね、猫か。そうか猫の死体か……」  父の両手が、脱力して僕の肩からはなれた。 「父さん?」  父が掴んだ両肩にまだ感覚が残っている。 「いや、なんでもないんだ。悪かったな。明日も学校だろ?早く寝ろよ」  ソファに座りなおした父がこちらを向かずに手を振った。もう行っていいと言うことだろう。  階段を上りながら、なんだか父にひどく心配をかけたと思った。  ……死の匂い……  父は、そんなものが身近に感じられるような……そんな環境に、普段身を置いているのだろうか……
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