第五章 終章

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 女性が離れてからメモを開いた。 『幸司っちへ  一葉ちゃんにだけ携番とメルアド教えるなんてずるい!  私にもメールを送りなさい!何日も放置したら絶対許さないからね!』 という文面に、携帯番号とメールアドレスが書かれてあった。そして最後は『美奈っちより』との言葉と、手書きのピースサイン。  僕は思わず苦笑いをしたが、でも、なんだか嬉しい……わざわざメモを渡すってことは、今日はシフトはいってないのか。あの元気な笑顔が見られないと思うとちょっとさびしい。  美奈から教えてもらった携帯番号とメールアドレスをスマホに登録して、メモをポケットにしまったとき、一葉さんがお店に入って来た。 「一葉さん、いらっしゃい。カウンター空いてるわよ」  女性店員がカウンター席をすすめたが、一葉さんは僕を見つけて軽く手を振ると、 「いえ、今日はこちらで……」 と僕の前に座った。  なんだか二人きりって緊張する。 「幸司くん、呼び出してごめんなさい」  そうにっこり笑う一葉さんは、今日はベージュのハイネックセーターだ。 「いえ、僕もパンケーキを食べたかったので」  慌てて言うと、また一葉さんがにっこり笑った。 「一葉さん、アイスココア?」 「いえ、紅茶にします」  確かに、まだ上着はいらないとは言え、夕方ともなると少し肌寒く感じる季節になってきた。  注文した紅茶が運ばれてくると、一葉さんが話しだした。 「それで、あれからいろいろとあったんですが……」  一葉さんがそういって、両手を軽く合わせて口に持っていく。何から話そうかと悩んでいるようだ。 「いろいろとわかったことと、不可解なことも……」  手は口に当てたまま、視線を下げて考え込むように喋る。 「まず、あの子の肺には、水没による窒息死の痕跡がありました。そして、大学での分析で、その痕跡はあの方のお家の庭にある、池の水によるものであるとわかりました」  一葉さんが悩んでいたのは、もしかすると僕が理解しやすいように、どう話すのかということだったのかもしれない。なんだか言葉を選んでいるようだ。 「だけど、それじゃあの猫が池で溺れただけとも……」
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