第二章 BENTEN

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第二章 BENTEN

 今日は朝から、昨日の雨模様が嘘のように晴れ渡り、青空にはうっすらとした雲が、長く伸びていた。  昨夜のうちに、台風は中部地方を抜け、今後東北地方を抜けた後は熱帯低気圧に変わるらしい。と、朝のニュース番組でやっていた。  まだまだ残暑が厳しい日もあるが、だんだんと秋の気配が近づいている。たぶん僕は一年の中でこの季節が一番好きだ。何と言っても食べ物が一番美味しい季節でもある。  もう少ししたら、おばあちゃんの畑で採れたサツマイモや、栗林で採れた栗を使った栗きんとんが食べられる。スーパーに並ぶサンマでさえもとっても美味しい。  授業中、そんなことを考えていたら、お腹がぐうっと鳴った。お昼に食べた焼きそばパンだけでは足りなかったか。  学校が終わったら帰りに藤堂を誘って駅前のお好み焼き屋にでも寄って行こうかな。  そういえば、今日は藤堂とはあまり話せなかった。昼休みに購買へ一緒に行こうと誘おうとしたんだが、なんか女子達からパンの差し入れを貰ったらしい。なんだよ、そこは手作りお弁当じゃないのか。  結局藤堂はそのまま昼食女子トークの場のメインゲストとされてしまった。別に羨ましくなんてないんだが、藤堂がいないと僕は他に話し相手がいない。  密かに(裏切り者め)と小さな声でつぶやいた後、なぜか無性に後悔した。  今日の最後の授業である五時限めの数学の授業が終わった時、教師が教室から出て行こうとしたところで突然立ち止まり、思い出したかのように言った。 「中澤ぁ、上森先生が呼んでたぞ、この後行ってこい」  ……あの先生は、なんでいつも人を使って僕を呼び出すのだろう。いつもロクでもない用事ばかりのくせして。担任よりも上森先生との接点の方が多い気がする。 「へーい」  嫌気が声に出てしまった。 「おい、中澤ぁ」  数学教師の顔が急に曇る。  しまった… 「あ、いやいや!はーいですよ。はーい!ちょっとあくびが出そうになってしまって」 「ほう、俺の授業は退屈だったか?」 「いやもう、すっごく集中して聞いてたので!流石に疲れてしまって!」 「まぁ、いい。ちゃんと行ってこいよ」  そう言い残して教師は呆れた顔をして教室から出て行った…  クラスのあちこちから「クスクス」と笑う声が聞こえる。藤堂が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。  まぁ、いいや。なんとか助かった。
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