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第五章 終章
僕はあの日の夜、何度もメールを書きかけては消し、また書いては消し……そんなことを夜中までやっていた。結局書いたのは
『今日はいろいろとありがとうございました。僕の電話番号とアドレスを送ります』
という文面と、番号とアドレスだけだった。
なんで気の利いた言葉が思い浮かばないんだろうと自分の文才を呪った。
返信が来るのを朝まで待って、結局来たのは翌日の昼ごろだった。
『昨日は遅くまで付き合わせてしまってごめんなさい。番号とアドレス確かに登録させて頂きました。何か分かったことがあったらメールします』
というシンプルなメール……それでも、女の子からのメールが僕のスマホに初めて保存されたんだ。機種変更なんてしないぞ。
それから、次のメールが来たのはさらに翌日の今日……しかも午前4時頃だ。
『今日はカフェに来ますか?判明した事項についてご説明します』
とのなんともお堅い文面だった。
もちろん答えはイエスだ。
『学校終わったら絶対行きます!』
と返信をした。
そんな訳で、僕はまたここ『cafe BENTEN』の前までやってきた。
「いらっしゃいませー」
と出迎えてくれたのは、久野さんでも美奈でもなく、全く見知らぬ女の人。
……今日は久野さんのシフトは入ってないのか。美奈は来るのかな……
そう考えながら、テーブル席に着いた。女性店員はバイトだろうか、それとも隣の弁天科学の社員さんだろうか。黒のスカートに白のブラウスはこの店の制服みたいなものらしい。
「ご注文はどうされます?」
「あ、パンケーキとアイスココアを……」
「かしこまりました」
久野さんたちがいないと、なんだか居心地が悪い。
「お待たせしました」
やった。久しぶりのパンケーキだ。
「あの、中澤さん……でよろしかったですか?」
パンケーキを目の前にして、少しテンションが上がっている僕に、不意に女性が話しかけてきた。
「は、はい。そうですが……」
よかったという表情をして、女性が一枚の折りたたまれたメモを渡して来た。
「美奈ちゃんが、メガネの男子高校生が来たら間違いなく中澤さんだから、これを渡して欲しいって」
メガネの男子高校生なんて、世の中にゴマンといるだろ。もっとなんか特徴ないのかよ。
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