第三章

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「遠路はるばる、この高天原へよく来てくれた。そなたが来るときを今か今かと待ちわびていた」 ニニギがサクヤヒメの手を取ると、いよいよサクヤヒメの緊張は頂点に達しました。その手先から伝わるニニギの暖かさに、気を失いそうでした。言いたいことが、伝えなければならない事があるのに、声は喉から先に進もうとはしてくれません。 「サクヤヒメ?どうしたのだ?」 心配そうに覗き込むニニギの顔がどんどんと近づいてくると、サクヤヒメはもう冷静ではいられなくなりました。 (あ、姉様!) 助けを乞うように後ろを振り返ると、イワナガヒメは優しく微笑んで、大丈夫ーー。とだけ囁きました。 それから軽くサクヤヒメの口に手を当てると、まるで塞き止められていた川が溢れる様に、想いが言葉となって、高天原に響き渡りました。 「わ、わたしは!あれから!あなた様の事ばかり考えてしまうのです!苦しくて苦しくて!あなた様の近くに行きたいと思うようになってしまったのです!こうなってしまったのはあなた様のせいでございます!どうか、この責を取ってくださいませ!」 それは、答えと呼ぶには稚拙で、乱雑で、自分勝手で、責任転嫁も甚だしく、わがままな、世界で一番純粋な言葉でした。 こんなに自分の心をさらけ出して、相手にぶつけたのは、はじめてでした。心が叫ぶと涙が流れることを、はじめて知りました。 「そなたの想い、しかとうけとった。心から嬉しく思う。ならば、私はそなたを苦しめた原因であるから、その責を取らなければならぬようだ」 ニニギノミコトは、深く吸い込んでから、あの時と同じように、サクヤヒメを真っ直ぐに見つめました。 「私もそなたに会いたかった。どうか、私の妻となって欲しい」 「………はい…喜んで」
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