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「な、なな、なんと!?天孫がサクヤヒメを妻にだと?!」
父であるオオヤマツミの喜びようは大変なものでした。何日も何日も夜通し酒宴を開き、各地の国つ神を呼び寄せました。
そして、いよいよサクヤヒメが嫁入りする前日に、オオヤマツミは二人の娘を呼び寄せました。
「サクヤヒメ、イワナガヒメ、この度の縁がどういう意味を持つか、そなたらはわかっておるか?」
それまで大騒ぎしていた姿は、まるで火を消したようになりをひそめ、その視線は真っ直ぐに娘達にそそがれました。その姿を二人の娘は怪訝そうに見合わせながら、首を振りました。
「よいか。我らがこの土地を守っているように、神々にはそれぞれに役割があるのだ。地を治めるわれら国津神、高天原を治める天津神。そなたらは天と地を繋ぐ架け橋として、未来永劫栄えていかなければならぬ」
サクヤヒメは、まさか自分がそのような責を担うことになろうとは、露ほども思っていませんでした。ただ、もう一度あのお方に会いたいという気持ちだけでした。
「父上様、そうサクヤヒメを不安にさせてはなりませぬ。天と地の繁栄は、愛の後に続くもの。夫婦にその様な責を求めてはなりませぬ」
「いや、わかっておらぬのはそなたらの方だ。天と地が繋がることは、もう我らだけの話ではないのだ。この先千年、二千年と続く子孫の繁栄にも繋がるのだ。国が栄え、作物が育ち、人が生まれる。この流れを守ってゆくのが、我ら神々の役目なのだ」
オオヤマツミは頑なに譲ろうとはしませんでした。こうなってしまうと、イワナガヒメは頭を抱えてしまいました。サクヤヒメはこの二人のやりとりをただ不安げに見守ることしかできませんでした。
「そこで、わしは考えた。なにただ騒いで飲み続けていたわけではないのだぞ」
大口を開けて笑いだすオオヤマツミにイワナガヒメは呆れてしまいました。イワナガヒメは父のこういうイノシシの様な性格が、少し嫌になるときがありました。父ならば、世の繁栄よりも、まず娘の幸せを願って欲しかったのです。
「わしは決めたぞ。サクヤヒメ。此度の縁、イワナガヒメと共に行くがよい」
唖然とする娘二人を前に、オオヤマツミは満足そうにうなずきました。
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