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「ち、父上様!それは、それだけはなりませぬ!サクヤヒメにあんまりでございます!わたくしが結ばれる二人の間に入るなどと!ましてや、わ、わたくしは…」
「なにそなたが案ずることではない。これは全て御子の為なのだ。御子を支える為には、そなたら二人でなければならぬのだ。のう、サクヤヒメ。よいな?」
鋭い視線を向けられて、サクヤヒメは思わず頷いてしまいました。すぐにオオヤマツミはいつもの温厚な父の顔に戻り、大きな体を揺すりながら酒宴の席に戻っていきました。
サクヤヒメが胸を撫で下ろすと、その横で、今までに見たことがないほど思い詰めた顔で俯いたイワナガヒメがいました。
「あ、姉様?」
サクヤヒメが恐る恐る覗き込むと、イワナガヒメは背を向けました。
「サクヤヒメ。今の父上様のお話、あなたはどう思いますか?あなたは本当にそれで良いのですか?」
その声は、いつもよりも弱々しくか細いものでした。
「わたしは、姉様と一緒に行けると聞いて、とても安心いたしました。いえ、安心どころか、姉様と離れて暮らすなど、考えたことはありませぬ。今まで、ずっと一緒にいたではありませんか。これからも離れたくはありませぬ」
サクヤヒメは本当にそう思っていました。大好きな姉と一緒にあの方の元へ行けるなら、もう何も怖いものなどありません。父の口から聞いたときは、さすがに驚きましたが、しかしそれはすぐに喜びへと変わりました。
しかし、イワナガヒメから返ってきた答えは、サクヤヒメが期待したものではなく、深い深いため息だけでした。
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