味をつくる

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 槍は女の口腔と食道を貫き、食の悦びでいっぱいの胃袋を通過し、臀部を貫通したところでピタリと静止した。  寝床に座し、首が上を見つめたまま、女はぐるんと白眼を剥いた。それを何か大きな影が軽々と持ち上げて見せる。家は崩れ落ちた。  上半身だけが射抜かれ、下半身は無傷な彼女の体は、朝の青い空気の中をぶらぶらと不安定に揺れていた。  怪物は青天井を見上げ、槍を口の上まで掲げあげる。  ――あーん。  朝日を背景にぽたぽたと滴る影を舌で舐めとるほどに、怪物は雄叫び、狂ったように地団駄を踏む。  槍を口にくわえ、肉を歯に挟みこみ、槍を引くと、それはするりと容易く抜けた。  音を立てて咀嚼する。うまい、うまい、と怪物はさも嬉しそうに何度も噛み締める。そればかりでなく、じゅるじゅると味を堪能する音をひっきりなしに立てる。 「こんなに旨い肉、くったことねえ。本当だった、ほんとだった……」  どこかへ消えていたと思っていた村人たちが、そこへ杖をもって現れた。五人の村人は怪物を中心に円をつくり、朝日の美しさと血肉の鮮烈さが乱れ入る光景を前にただただ無表情をたたえたまま、杖を高々と天にかざした。てっぺんの丸い灰色の玉がきらりと光る。それは次第に増幅し、いつしか朝日よりも力強い光を放ちだした。間もなく光はパッと弾け、それまで舌の上の獲物に魅了されていた怪物も、ついに村人たちの気配に気がつきたじろいだ。  だが怪物が爪を振るよりも早く、怪物はその体表から順に焼け焦げて死んでしまった。  五人の村人は再び杖を掲げてサーベルを取り出した。文字どおり空中から出現した刃を掴みとり、一斉に振るうと、怪物はバラバラに散らばむった。しかし内部まで丹念に焼かれた身は一滴の血も洩らさない。すべてを肉が吸収したとでも言わんばかりに、こんがり焼けた肉の表面は艶やかで美しかった。  唯一焼けていなかった女の名残汁が付着した部分を除去し、村人たちは怪物を切り分けて食べた。
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