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「あなたなら信用できると推薦を受けた」
三人の男のうち、真ん中の一人がそう言った。
「うちはそういうのは受けてねえ。
第一、船員だけでも40人からいるんだ。
航路から逸れたルートを行くんなら、燃料だって食う。
諸々ふくめたら一体いくらかかると思ってるんだ?」
タタ・メーメイは、焼き煉瓦ほどの強固さで申し出を突っぱねた。
両替商のクラルテから仕事があるとの情報を聞き、わざわざナツメヤシ亭に出向いたのだが、とんだムダ足だった。
「じゃあ」と彼が席を立とうとしたころで、男は付け足した。
「経費は言い値で構わない。
それプラス報酬だ」
男が提示した金額は、四度船を出した時の儲け以上だ。
タタは椅子から浮かした腰を再びどすんと降ろした。葦で編まれた座面がギュッと鳴る。
ため息を吐いてから、店名にもなっているナツメヤシ酒をオヤジに注文する。
そしてようやく、テーブルの向かいに座っている男をまじまじと見た。
年の頃はタタより一回りほど下の、二十歳前後だろうか。
東方の人間にしては珍しく、巻衣ではなく、金属の釦があしらわれたカッチリとした短上着にズボンという姿。
上下とも濃紺で、東方絹で織られているのか光沢がある。
たるみひとつなくきっちりと巻かれたターバン。
切れ長の目に通った鼻筋。
整った顔立ちと言えなくもないが、神経質そうな眼差しと、全く弛むことのない口元、必要最低限のことのみを伝える淡々とした物言い。
典型的な役人タイプ。個人的には好きになれそうもない人種だと、 タタは思った。
他の二人はもう少し年長者で、タタと同じくらいの齢に見える。
服装は真ん中の男と同じだが、二人は口髭を長く伸ばしている。
役人タイプというのは共通しているが、彼らのほうはどちらかというと落ち着いた──悪く言えば気の弱そうな雰囲気が滲み出していた。
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