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「そこには、トマバス・コショウの木が、まだ生えていると聞いた」
男たちは先ほどから、酒にも料理にも一切手を付けていない。
ナツメヤシ酒の甘味がタタの口中を重くしていた。
鶏肉の香辛料焼きを勝手に摘まんで食べる。
塩気と爽やかな辛さで口の中がさっぱりする。
杯の残りをあおり、タタはオヤジにお代わりを注文する。
その間、彼らは黙ってタタの言葉を待っていた。
「それもオレのことと同じく、両替屋で聞いたのか?
たしかに、そんな噂話が流れることはある。
だが、それは砂海にドラゴンが現れただの、水晶のバラが咲いてただのと同じ、ただの噂話だ」
そう言いながらもタタは、この旨味のある依頼を断るつもりはなかった。
話しながら、どうやって成功失敗に関わらずに報酬を出させる流れにもっていこうかと思案していた。
「トマバス・コショウはもともとその遺跡――イト遺跡ってんだが、そこがかつての昔、街として栄えてた頃に使われてた香辛料だそうだ。
あるあるとは言われてても、そもそもがおとぎ話みたいな遠い話なのさ」
そこで、ふと思い付いて訊いてみた。
「それにしても、なんでそんなにトマバス・コショウが欲しいんだ?」
はじめて真ん中の男の顔の表情が動いた。
ためらったような、照れたような曖昧な笑みを浮かべたのだ。
「我が国の王女が世界一の美味をお望みなのだ」
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