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タタはためらわずにドアを開けた。
甲板に出ていたのは、依頼主のスーシィだった。
慌てて飛び出し、階段を駆け下りる。
スーシィの腕を掴んだところで、右舷方向から巨大な黒壁が迫っているのが目に入った。
巻き込まれれば、肺の中まで鉄粉にまみれて呼吸ができなくなる死の風だ。
船長室まで戻る余裕はない。
シドにドアを締めろと叫び、彼は手近な倉口の蓋を力任せに引っ剥がす。
スーシィを倉口に蹴り落とす。
下に降りる階段は、ほとんどハシゴに近い急角度だ。
スーシィは文字通り転がり落ちた。
タタも飛び込む。
直後、頭上で凄まじい音がした。
イナゴの群れに巻き込まれたかのようなギシギシとした音だ。
蓋を閉める余裕などなかったので、黒い鉄粉がバサバサと入り込んできて、中甲板でほとんど重なり合うように身を伏せる、タタとスーシィの頭上に降り注いだ。
「バカ野郎!
何してやがる」
風の音が止み、タタは身を起こした。
胸ぐらを掴み、殴ろうと思った。
依頼主だろうが関係ない。
だが、釦がちぎれ、はだけた短上着の胸元に、思いもかけないボリュームと柔らかさを感じた。
「お前……」
下着で抑えつけていたものが、落下の時に緩んだらしい。
振り上げた拳のやり場に困り、襟元を正してやった。
それでスーシィも、タタが気付いたことに気付いたらしい。
正された襟を、さらに合わせて後ずさる。
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