帰国

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先ほどから出ている物騒なこの言葉たちの意味は 今から3年ほど前、アメリカに赴任して2年目の時に帰国した際、 付き合っていた恋人の浮気の現場を目撃して、近くのカフェにそいつを呼び出した。 その際に、時間つぶしにとスケッチブックにドレスのデザインを描いていたのだが、 恋人とも無事に別れる話で落ち着いて、カフェをあとにするときに一つ飛ばしたお隣さんとぶつかって、お互いのスケッチブックを床の上にぶちまけてしまった。 相手は電話がかかって外に出ようとしていたから、気を利かせて自分一人で散らばったお互いのデザインを拾って、自分のだけ持ってカフェを出たのだけど この時、わたしは自分のだと思って手に持ったスケッチブックが、実は相手のモノだったという痛恨のミスを犯してしまった。 どこの誰だかわからないし、自分のモノじゃないと気がついたのが、すでに機上の人となった時点で諦めていたのだけど、 どういう訳だか、わたしがデザインしたウェディングドレスが、日本のアイドルが着て結婚式を挙げて世にお披露目されてしまったらしい。 そのデザインをした人って言うのが、もちろんわたしではなく≪宇佐美 要≫。 おそらく、あの場で取り違えてしまった相手の男性の名前だろう。 自分のデザインとして作り上げたドレスが、当時人気絶頂の最中でできちゃった結婚(今はさずかり婚って言うらしいが)のアイドルのお目に留まって、挙式で着たことからその人はこの世界では有名な人となったそうだ。 わたしがその事を知ったのは、そのドレスが挙式で着られたというときからすでに半年以上も経った後の事。 たまたま有休を合わせて遊びに来ていた葉子と小牧が持っていた雑誌に載っていたことから発覚した。
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