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「ってかさ、向こうで彼氏は出来なかったわけ?」
目尻に涙を溜め込んだ小牧が聞いてくるが
「そんな時間、何処にもないわよ。
ったく、常務ったら何もやらないのよ!相手会社との取引だって、言葉がわからないからって全部わたしに丸投げだったし!」
思い出したらいくらでも発狂できる。
「うっそ!じゃあ『手柄泥棒』は常務の事じゃん。そのお陰で専務に昇格できたんでしょう?」
驚いた葉子の口から、飲み込もうとしていたイモ焼酎が危うく吹き出されるところだった。
「そうとも言えるわよね。日本に帰って来て、やっと常務とはおさらば出来るかと思ったのに、今度は専務に昇格したから秘書に就けなんて言われるとはね・・・・」
これから先の仕事を考えると、憂鬱で手に持つカクテルもクイッと一気に喉に流し込んでしまった。
「あ、これ美味しいね」
さすが小牧。
飲める量が限られているから、お酒の目利きも超一品。
「でしょう?でも、だから危険なんだよね。気がつくとかなりのアルコールを摂取してることになってるから」
過去にアルコールで痛い経験ありの小牧ならではのお話だ。
ありがたく頂戴しよう。
「んでもさ、そのお陰で亜紗妃ってば痩せられたよね」
こちらはいくら飲んでも乱れる事もなく、マイペースに飲み続けている葉子。
「まあね。でもお母さんが来てくれて食事なんか支度してくれてなかったら、絶対途中で倒れて両親が住んでいるシカゴに強制的に連れて帰られてたかもね」
料理を作る時間や食事をする時間さえも惜しくて、その時間を睡眠に当てたくなるほどの過酷な仕事量だった。
母親が見かねて何度となくワシントンに来てくれて、生活の事を全般に面倒見てくれていた。
今の常務が専務に昇格が出来た影の立役者は、実際は母なのかもしれない。
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