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聞くとはなしに・・・・いや、嘘だな。
ガッツリと耳をダンボにしてこの二人の会話を聞いている俺。
「俺もコーヒーを買っ・・・・・」「その必要はないわ!」
男が喋っているのを遮って、少しきつめに言葉を投げつける彼女。
その姿に男が息を飲みこむのがわかった。
テーブル一つ分空けている俺にまで聞こえているくらいだ。彼女だって伝わっているだろう。
「アサヒ・・・・・」
そんな彼女の姿に、すっかりと怯えているような男がその名をつぶやくと
「ハッキリさせましょう。もうわたしの名前は呼び捨てしないで」
この男がこの店に来て、彼女の目の前に姿を現してから、一度も視線を合わせていない彼女からの言葉に、わかっていたのか男が何も言い返していない。
「もともと無理だったのかもね。わたしはまだ日本に戻れるのはいつになるかわからないわ。
それなら、あなたを解放してあげようと思うの。それでいいわね?」
なにかあったのかもしれない。
来た時からの男の狼狽えている姿から見れば、非は男にあるような感じだが、それを咎める事をせずに『解放』という言葉で二人の関係に終止符を打とうとしている彼女。
「俺は・・・・」「いいわね?」
またしても男に言葉を口から発せる事を拒むかのように遮って止めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
男はだいぶ長い間をあけたあと、やっとその言葉をつぶやいていた。
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