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店の窓を背に立ち、スマホをタップすると
『宇佐美ぃ---------!
いつまで油を売ってるぅ-----------!』
俺にもしもしも言わせずして怒鳴り始めた俺の上司。
『すみません。今戻ります』
自分の部署では気が散るからと、この店でデザインを描くと言って会社を出て来ていた。
来てまだ30分くらいなもんだけど、そろそろ戻って来いと言うことらしい。
『お前、4時からの会議をすっぽかす気かぁ?』
だいぶ声量が落ちたけど、それ以上の気迫のある言葉・・・・
---シマッタ!
すっかりと忘れていた!!
『すぐ戻ります!』
目の前にいる訳でもないのに、つい電話を片耳に当てたまま頭を下げそうになった俺の横を、ペコリと頭を下げた彼女が通り過ぎて行った。
---あ、帰っちゃうんだ。
電話の通話口を手で押さえて
「あの!ありがとう」
拾ってもらったお礼を後ろから投げると、振り返った彼女がもう一度頭をぺこりと下げて歩いて行ってしまった。
その姿は、先ほど彼氏らしき男を遣り込めた女とは同じ姿に見えない。
普段の彼女は、きっと今の姿なのだろうな・・・・
ボーっとしたまま、人並みに紛れ込んで見えなくなった彼女を見送っていると
『宇佐美---------------』
先ほどよりも更にひどい怒声が、抑え込まれた通話口を震わせるほどに聞こえて来て我に返った。
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