竜と希望と恋心

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「何故ファティマ連邦に国家元帥の名が残されていないかだ」  ファティマ連邦だけは英雄の名が継がれなかった。  連合軍を成立させ、千年続く盟約を建てた人物。それが名前すら歴史から消えた理由が。  無論、当時は知られてはいた。年月がたち忘れ去られただけではなく、意図的に記録が排除された。 「皆を集めたのはその為。彼の者をこれへ」  興味を抱いた。永年不明だった答えが傍にある。  戦が加熱していることに一抹の不安はあったが、それでも確かめずに戻る気にはなれなかった。  扉が開かれる。単身で茶色の絨毯の真ん中を歩く者が、左右の百官に一目もくれずに進む。  身の丈はこの場の誰よりも高く、平均的な成人男性より頭一つは大きい。  黒い鎧に黒い外套。顔がすっぽりと隠れる黒兜。首もとに白百合の型をあしらった金色の記章。  礼装用に紋章が印されたたすきをかけている。  盾の形の紋章には、クォーターリングで四種類の紋が刺繍されていた。  皆がそれを食い入るように見る。同じモノは二つとない、何者かがそれで解る。
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