君と私の道中劇

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 沈黙が場を支配する。そう、彼は無言を貫くしかないのだ。  他国と戦争をしている相手との同盟を破り、主義も主張も違うかつての敵と手を組み、あまつさえ奇襲を仕掛けて隣国に侵略する。  しかも防戦に出ている軍の背には、多数の民間人がやって来て支えていると言うではないか。  そんな戦のどこに誉があるというのか疑問と不快で一杯だった。 「ゲームをしましょう」 「なに?」  不意な持ち掛け。場にそぐわない言葉。  フラはルーニーの横に座ると半分にやつきながら挑発する。 「心が濁っていると力なんてこれっぽっちも発揮できないものよ。ハーファ傭兵団と炎獄騎士団とのゲームを」 「下らん、そのような話に乗るつもりはない。マーサ、客人がお帰りだ」 「はい、旦那様」  席を立って部屋から去ろうとする背に一言。 「あーら、逃げるのかしら。戦場にも行けない勇気が欠如した者の集まりなのね」  ピタリと足が止まる。抑えつけられた怒気が部屋中に溢れかえる。 「今、なんと言った」  聞き違えるわけがない、自制心のたがを外すかどうかの瀬戸際だ。
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