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霧が濃い。雲と言った方が良いかも知れない。
空気は澄んでいて人間の匂いは全くなかった。
それだけでなく生物そのものの気配が一切感じられない。
「誰も居ない……」
何かしらの力は感じたが、頂上にまで着たのにこれといったものは無かった。
少しばかり気落ちしてしまう。未練がましくあちこち振り向きながら探す。
虚しく咆哮をあげた。山々に響いて木霊することもない。
が、空間の一部が急に光輝き魔力を発した。
「むっ! ……これは……幻影……ですの?」
無害な自動魔法だとわかり気を鎮める。輝く幻影にはかつての守護竜がここの空を飛び回る姿が映し出されていた。
中にヘンリエッタと同じクリプトドラゴン種も居たようだ。
一際大きな体。白い体に鮮やかな鱗が光輝いている。
「あれが神竜?」
無音。何の説明もないのにそう思った。
どんな意味があってこのような魔法が残されているのか、彼女には解らない。
長いようで短い幻影が終わる。月を見ても位置は全く変わっていない。
絶滅してしまったのかも知れない。心が急に寂しくなったヘンリエッタは、もう一度大きな声で月に向かって吼えるのであった。
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