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彼女、小桜奏(かな)さんは今年の新入生で、僕のクラスではないとはいえ、英語を教える生徒だ。
しかし、彼女のことを知ったのは授業が始まるよりずっと前、まだ入学すらしていない、春休みのこと。
コンビニでいつものように晩ごはんを買って帰り道。
数人の女の子が公園にいるのが見えた。
高校生くらいに見える彼女たちに不穏な空気などなく、仲良く戯れている様子にはついつい笑顔になってしまう。
まだまだ子供だな、そんなことを思いつつ通り過ぎようとしたとき。
――唐突に、歌声が聞こえた。
再び公園の中を覗くと、ひとりが歌っている。
その澄んだ歌声と凛と背筋を伸ばして歌う彼女の姿に、僕は――心を奪われていた。
「あー、もうカナの歌、聞けなくなると思うと残念だな」
話し声に我に返る。
それほどまでにその歌声に聞き入っていた自分が急に恥ずかしくなって、慌ててその場をあとにした。
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