規則違反

4/9
前へ
/9ページ
次へ
家に帰ってからも歌声は僕のあたまを離れず、なにも手に着かなかった。 悶々と日々を過ごし、それでもどこの誰ともわからないんだし、もう二度と会うこともないだろう、諦めるしかないんだ。 そう、自分に云い聞かせて始まった新年度。 入学式で、彼女を見つけた。   これほど運命を呪ったことはない。 せっかく諦めた彼女が、生徒として現れたんだから。 冷静でいなければ、そう思うのに早くなっていく鼓動を抑えられない。 さりげなく、彼女――小桜さんのことをチェックしてしまう毎日。 彼女が入った合唱部の歌声に耳を澄ませてしまうことはもちろん、ふとした笑顔にも胸を高鳴らせてしまう。 駄目だとわかっているのに、彼女を求めてしまう自分にただ、苦笑いするしかなかった。   生徒たちの制服が夏服に替わり、僕も学校のクールビズ通達にあわせてノータイになったころ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加