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家に帰ってからも歌声は僕のあたまを離れず、なにも手に着かなかった。
悶々と日々を過ごし、それでもどこの誰ともわからないんだし、もう二度と会うこともないだろう、諦めるしかないんだ。
そう、自分に云い聞かせて始まった新年度。
入学式で、彼女を見つけた。
これほど運命を呪ったことはない。
せっかく諦めた彼女が、生徒として現れたんだから。
冷静でいなければ、そう思うのに早くなっていく鼓動を抑えられない。
さりげなく、彼女――小桜さんのことをチェックしてしまう毎日。
彼女が入った合唱部の歌声に耳を澄ませてしまうことはもちろん、ふとした笑顔にも胸を高鳴らせてしまう。
駄目だとわかっているのに、彼女を求めてしまう自分にただ、苦笑いするしかなかった。
生徒たちの制服が夏服に替わり、僕も学校のクールビズ通達にあわせてノータイになったころ。
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