10人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「ねえ、この川の名前って『カッパ淵』って言うのよね? どうして?」
ふと思い出して、アタシは二人に聞いてみる。だって、変な名前でしょ?「カッパ淵」なんて。
「ああ、そっか。メグミちゃんは『カッパ淵』の昔話を知らないのか」
土手に生えている草の葉っぱを千切って、クルクル回していた流が目を丸くした。
「何だか、もうずーっと一緒に遊んでるみたいな気がしてたから、カッパ淵の話も知ってると思ってたよ」
そう言って流と汀ちゃんの兄妹は、名前の由来を聞かせてくれた。
──昔、むかぁしのお話。
土淵の新屋という家の裏に、とっても深い淵があったんだそうな。
ある夏の暑い日、その家の若者が馬の足を冷やしてやろうと、淵へ馬を連れて行き、そのまま遊びに出かけてしまったんだと。
そうしたらそこへカッパが出て来て、馬を淵の中へ引きずり込もうとしてな。ビックリ仰天した馬はカッパをぶら下げたまんま、馬屋に逃げ帰ってきたそうな。
今度はカッパの方が驚いて、馬のエサ桶を引っくり返して、その中に隠れていたんだと。
家の者達が「どうして馬だけが帰ってきたんだろうか?」と不思議がって、馬屋をのぞいて見たんだと。
そしたらエサ桶が引っくり返って、小さな手が見えたんだと。
開けて見たらば、そこにはカッパが隠れておってな。
集まって来た村の衆が「このカッパ、いつもいつも悪さして、ろくでもねぇから殺してしまえ」と言い出したんだが、見つけられた河童は涙を流しながら手を合わせて言ったんだと。
「もう悪さは二度としねぇから、命だけは助けて下され」
新屋の主人は可哀想になって「これからは、ここの淵で絶対悪い事すんなよ」って、許す事にしたんだと。
カッパも言う事を聞いて、そこから遠く離れた奥沢の淵に引越したんだとさ。──
「この川は元々、大人の腰ほどもある深さの淵だったんだ。それを今は、川底を埋めて浅くしてあるのさ。これじゃあ、カッパは住めないかもね」
「ええ? だって、おとぎ話でしょ? 川が深くったって浅くたって、カッパなんかいるワケ、ないじゃない」
流の話を聞いて、アタシは思わず鼻で笑ってしまった。
だって、カッパよ、カッパ?
この科学も進んで、人が宇宙にまで飛び出そうとしている時代に、カッパですって?
最初のコメントを投稿しよう!