触れたい想い

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あの人を見ていると、抱いてはいけない感情が湧き起こる。 あの華奢な身体を強く抱きしめたい。 白い肌に触れ、じかに体温を感じたい。 向けられる柔らかな微笑みを全く別の感情に染めたい。  ◇ ◇ ◇ 自室のベッドに腰をおろし、身体を壁に凭れかからせると、ヒンヤリとした冷たさが背中に伝わってくる。数秒前までいじっていた携帯をベッドの上に投げ出すと、ぼんやりと正面に広がる雑多な部屋の光景を眺める。 視線だけは見慣れた部屋に向けられているが、俺の意識は背にした壁の向こう側に向けられていた。 白い壁の向こう……それは兄 直樹(なおき)の部屋。 七年前、両親の再婚で、母の連れ子である俺と義父の連れ子である直樹は一つの家族になった。 小四の時に突然できた義兄。戸籍上は兄ではあるが、誕生日はたった二ヶ月しか離れていない。だけど、そのたった二ヶ月が、俺と直樹を弟と兄にし、学年という大きな隔たりさえも作ってしまった。 三月生まれで、その時期の穏やかな暖かさをそのまま性格に映したような直樹。いきなりできた年下ともいえない弟である俺に、初めから兄弟だったかのように優しく話しかけてくれた。 直樹は俺のことを「拓斗(たくと)くん」と、親しみを込めて呼んでくれた。その呼び方は、互いに十七歳になった今でも変わらない。だけど、俺の方は直樹を兄と思うことができず、家族になった日からずっと「直樹」と、呼び捨てで呼んでいた。
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