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俺が明るさだけで友人を作る一方で、直樹はその包み込むような優しさで人を惹き付ける。成績も下位で、取り柄といえば運動能力くらいの俺と違い、成績も優秀で何でもそつなくこなす直樹。俺と直樹は性質が全く逆だ。
実質年齢差のない兄弟にこれほど差が生じれば、下の男は上の男に少なからず劣等感を感じるだろう。俺自身も、最初の頃は直樹に対し対抗心を持っていた。だけど、そんな小さな感情は直樹の穏やかさに絆され、すぐに大きな憧れに変わっていった。
……憧れ。たしかに、それは憧れかもしれない。だけど、俺の抱く憧れは上位の人間に対する羨望とは異なっていた。
息を潜め、耳を澄ますと、壁の向こうから直樹の声が聞こえてくる。
『もぅ、克己。そんな……らいでよ』
『いーじゃん。……直樹だって……だろ』
壁越しで籠っているが、それでも分かる弾んだ声。そして、それを引き出す男の声。
直樹は高二の終わり頃から、一人の男を家によく連れて来るようになった。
その男は金に近い茶髪で、耳にピアスをいくつも開けており、一目見ただけで軽そうな印象が残る。小柄で真面目を絵に描いたような直樹と、いかにも遊んでいますといった風の男。友人と呼ぶには釣り合わないように思えた。しかし、直樹はその男のことを「克己(かつみ)」と、親しげに呼んでいた。
それだけでも衝撃だったのに、さらに驚かされたのが克己が直樹と同じ高校に通う同級生だということだ。直樹の通う高校は、偏差値は高いがかなり緩い校風だとは聞いていた。それでも克己のような風貌の生徒がいるとは思わなかった。直樹が言うには、同級生の中には克己のようなタイプも多いらしく、特に珍しい格好でもないらしい。
そう説明されても、俺は克己が直樹の友人だとは信じられなかった。
二人には何かある。その直感は、あること知ってしまったことで、嫌な形で証明されてしまった……。
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